解説
non-IgE GIFAs
病歴 | 【症例】日齢10 男児 【主訴】胆汁性嘔吐 【現病歴】妊娠分娩歴に特記事項なく、仮死なく出生した。出生後に初期嘔吐は見られたが改善し、十分量の母乳・人工乳を哺乳出来ていたが、体重増加は得られていなかった。日齢8より再度嘔吐が出現し、日齢10に胆汁性嘔吐となったため、転院搬送された。 |
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新生児における胆汁性嘔吐の場合、鑑別として腸重積、腸閉塞、中腸軸捻転、壊死性腸炎といった緊急疾患をまず想起します。
本症例では体重増加不良が先行しており、亜急性~慢性の病態についても考慮が必要です。
新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症の可能性も考えます。
身体所見 | Vital: 体温37.0度、心拍148bpm、呼吸数36/分、血圧87/58mmHg、SpO2 100%(室内気) [血液検査] [腹部X線] |
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腹部X線では腸管ガスはびまん性に分布し、明らかな拡張腸管もありません。
血液検査でも特記所見はありませんでした。
腸回転異常や捻転等、ガス分布に異常が出現する病態を積極的には疑いません。
まずは腹水および、門脈ガスの有無をチェックすることで、外科的介入が必要な緊急病態がありそうかどうかの感触を得ます。
成人のFASTと同様の手順です。下腹部の膀胱直腸窩、Morison窩、脾腎境界の周囲に腹水を示唆するエコーフリースペースは見られませんでした。
門脈内ガスはありません。門脈ガスがみられるパターンについては、別症例の解説をご参照ください。
新生児の嘔吐では、腸回転異常・中腸軸捻転は必ずチェックするべきと思います。
SMA/SMVの位置関係は正常と思われました。
また上行結腸と下行結腸もそれぞれ正常に位置しており、腸回転異常は示唆されませんでした。
さて本症例では、小腸の所見がkeyになっています。
本症例の小腸は、内腔に液体貯留が目立っており、蠕動低下の所見です。
*参考として正常な新生児の小腸の所見を提示します。
小腸の拡張は一過性に見られても、数秒以内に蠕動で押し流されます。
また、小腸壁の肥厚が部分的ではありますが、見られます。
正常な新生児の壁の厚みは1~2mm以下です。
次に注目するのが、腸間膜です。基本的に腸間膜血管の周囲を囲む脂肪組織が腸間膜になります。
右にお示ししたように、正常では新生児の腸間膜はほとんど厚みが無くて、血管を同定するのが難しいです。
本症例では明らかに血管周囲に高輝度な塊として描出されています。
エコー所見のまとめと結論
腸重積
腸閉塞
中腸軸捻転
壊死性腸炎
〇超音波検査所見で腸間膜肥厚、小腸壁肥厚、腸蠕動低下を認め、
上記疾患を否定できたことから“Non-IgE-GIFAs”(下部に補足あり)を疑った。
⇨除去試験として、人工乳の中止、加水分解乳を導入。
本症例では、最も強力な診断根拠として後日に負荷試験が行われ、陽性であっためnon-IgE-GIFAsの確定診断としております。
補足
本症例の、non-IgE-GIFAs関連の検査結果のリストです。
除去試験の結果として、臨床症状(嘔吐、体重増加不良の改善)がみられたほか、
US所見も数日で明瞭に改善しました。
Non-IgE-GIFAsの疾患概念
新生児・乳児消化管アレルギーは、近年国際的な概念などを鑑みて、新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症、Non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy(Non-IgE-GIFAs)と再定義とされました。(1)
Non-IgE-GIFAsには以下が含まれます。
・FPIES(food protein-induced enterocolitis syndrome)
嘔吐、下痢、下血などをし、病変は全消化管に及ぶ。
・FPIAP(food protein-induced allergic proctocolitis)
血便が主症状で、病理組織学的には好酸球性大腸炎が多い。
・FPE(food protein-induced enteropathy)
下痢、体重増加不良などをきたす慢性疾患。
FPIES, FPIAP, FPEはオーバーラップした概念で明確な区別が難しいのが現状です。
日本人のNon-IgE-GIFAsはFPIESとFPIAPの中間型のことが多いとの報告もあります。(2)
Non-IgE-GIFAのUS所見
超音波検査(US)は、ベッドサイドで低侵襲に速やかに行えるため、Non-IgE-GIFAsの診断における有用性が期待されています。
Non-IgE-GIFAのUS所見として腸管膜肥厚、腸管血流シグナル亢進、小腸壁肥厚、大腸壁肥厚、腸蠕動低下などが報告されております(3)
※ただし、これらの所見はいずれも以下の通り、非特異的です
腸間膜肥厚、腸管血流シグナル亢進:炎症の反映
小腸壁肥厚:血管炎、MRSA腸炎など
大腸壁肥厚:壊死性腸炎や炎症性腸疾患、細菌性腸炎など
腸蠕動低下:壊死性腸炎やウイルス性腸炎など
疾患の頻度やUS以外の所見も合わせた総合的な判断を要します。
腹部エコーはあくまで「鑑別」と「診断補助」に有用なモダリティであると考え、使用しています。
※もちろんフォローアップにも有用です。
参考
2. Yamada Y, Curr Opin Allergy Clin Immunol, 2020
3.Jimbo K et al., Allergol Int, 2019、Mannini M et al., World Allergy Organ. J., 2020