解説
中腸軸捻転
病歴 | 症例 日齢2 女児 主訴 胆汁性胃残 病歴 子宮収縮抑制困難のため在胎29週、出生体重1100g、アプガースコア7点(1分値)、9点(5分値)で出生した。生後18時間で初回排便あり。人工乳による経腸栄養を日齢1より開始し、日齢2に2mL×8回/dayに増量した。それまで消化良好であったが、突如10mLの胆汁性胃残が出現した。 |
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注入量を大幅に超える多胆汁性胃残の出現であり緊急性が高いです。
中腸軸捻転、壊死性腸炎、消化管穿孔、胎便栓症候群を上位の鑑別に挙げつつ、重症の新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の可能性も考えていました
身体所見 | バイタルサイン 血圧 60/40mmHg 脈拍数 150bpm 血液ガス分析(毛細血管) pH 7.41 HCO3- 24.3mEq/L BE -0.3mEq/L Lac 1.5mmol/L 単純X線写真:
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単純X線では十二指腸の通過障害がありそうです。
血液ガス分析では酸塩基平衡の崩れはありませんでした。
下腹部縦走査
右側腹部縦走査
腹部エコーは腹水の有無から評価を開始します。
*腹水の混濁の有無は、画質が粗いとそもそも判定できませんが、新生児の体格であれば、
高い確率で腹水の濁り=炎症細胞・血球成分の有無を判断できます。
以下のキャプチャ画像で示す通り、本症例では、腹水を認め何らかの重症な腹部疾患が生じていそうです。
ただし混濁はしておらず、下部消化管穿孔の可能性は下がります。
次に、門脈内ガス(門脈気腫)の有無を評価します。
*門脈気腫の存在は、必ずしも重症・緊急事態を意味はしませんが、例えば壊死性腸炎で門脈気腫があれば
Bell分類でstageⅡb以上、などの評価に有用です。
↓本症例の様に、門脈水平部~左枝臍部を描出すると、確認しやすいです。
以下に示す動画は、別の症例(壊死性腸炎)で見られた門脈内ガスです。
門脈本幹から気泡が連続的に上行しています。
門脈内の気泡の移動が分かりやすいですが、よく見ると肝実質内に、左葉優位に点状高輝度(一部多重反射の尾を引く)がみられます。
肝内に溜まったエアーです。
いよいよ病変に迫るキー画像になります。
心窩部横走査で、SMAとSMVの走行を描出しています。
撮像方法のコツとして、以下に示すように、頭側から尾側にゆっくりと、ハケで塗るように軽く圧迫しながら描出します。
whirlpool sign陽性です。
中腸軸捻転では下図のようにSMAを軸として周囲にSMVが渦を巻くため、
これを直接描出する、whirlpool signが診断の決め手となります。
日頃から『 SMAとSMVの位置関係を描出する』トレーニングを積んでいれば、
同じようにプローブを頭側から尾側に動かすことで評価可能です。
中腸軸捻転はSMV→SMAの順に血流が途絶しますが、
血流シグナルからはSMVもSMAも血流が保たれていそうです(まだ進行していない!)。
また手術所見で後述しますが、
時計回りに540°回転しており画像所見とも合致していました。
エコー所見のまとめと結論
whirlpool signを認め、
中腸軸捻転と診断します。
消化管穿孔には至ってなさそうで
上腸間膜動静脈の血流はまだ保たれていますが、
一刻も早い捻転介助術が必要です。
補足
上記の通り、SMAもSMVも血流が完全に途絶はしていませんが、
尾側のSMVに拡張があることは確認できており、確実に”血流障害”は存在しています。
中腸軸捻転は、時間単位で状態が悪化します。発見時は循環不全や代謝性アシドーシスがなくても、数時間後にはあっという間に腸管壊死が生じ、短腸症候群に至る可能性があります。本症例も、手術室入室を待っている間に乳酸値が上昇しました(下表)。
幸い、膓管壊死は生じておらず捻転解除術のみで帰室し術後経過も良好です。中腸軸捻をみたらできるだけ早期に緊急手術を準備することが重要です。
急な状態変化の中でのエコーは戸惑いますが、 日頃からSMAとSMVの位置関係を描出していれば大丈夫です!
手術所見
腹水は黄色透明。腹水培養陰性。
小腸は時計回りに540°回転あり、捻転解除を行った。
色調は軽度暗赤色調であったが、明らかな膓管壊死なし。
結腸と小腸に膜様構造物があり切離した。