肝臓
肝臓エコーの当て方、見かた
・解剖からみる、肝臓のエコーの当て方
肝臓は腹部最大の臓器で、乳児~小児では「どこにあるか分からない」ことは珍しいですが、逆に「全部見えた」と思いがちな点に注意が必要です。
この図に示すように、肝臓は肺と消化管のガスに上下を挟まれています。乳児では便秘などで腹部ガスが多いパターンは多く、肋骨弓下にプローブを当てても観察不良になることがよくありますが、乳児では肋軟骨が骨化していません。つまり、前胸部ではかなり頭側から見下ろすように当てても、肋軟骨を通して肝臓を観察することができます。肺過膨張がこれに加わると、上からの視野も限られるため難しくなりますが、それでも③の位置(肋間)からのアプローチは有効な場合がほとんどです。
①~④のそれぞれの位置での正常エコー像を示します
①心窩部縦走査
大動脈を指標に、肝左葉を描出。しっかり左端まで振る。
②心窩部横走査
大動脈を指標に、肝左葉を描出。しっかり上下に振る。
③心窩部横~肋骨弓下斜走査
視野が広いので、浅部・深部・より左側(S5/ 、より右側 (S6/ と、順番に観察していく。
横隔膜ドーム下を覗き込むにはしっかりプローブを倒しこむ。
④右肋間走査
より尾側、腎臓の周囲および肝床部は③で見えないこと多いので、注意して観察する。
肝の正常像を、各観察項目ごとに記載する
1.実質パターン
・グレーで繊細、均一な網目模様
・脾臓と同等のエコー輝度
・年齢による変化は無い (提示画像は 9 歳)
実質パターン異常の例:
①肝繊維症の7歳
粗造。脈管の壁も凹凸あり
②脂肪肝、15歳
高輝度化、不鮮明化、深部減衰。
2.脈管構造
肝内の脈管は4種類あるがGlisson 鞘内にある3つ組と、鞘がない肝静脈で大きく走行が違う
【Glisson 鞘がない】
肝静脈
【Glisson 鞘に入っている→縁取りがある】
門脈
肝動脈
肝内胆管
肝静脈。やや尾側から見上げるようにすると、きれいに枝分かれを描出できる。
門脈、肝動脈、肝内胆管。腹部正中やや右側で見下げるように当てると、このように左右門脈本幹~臍部を描出できる。肝内胆管と冠動脈は細いので、通常の観察では門脈しか見えない(よく見ればあるが)
このようにキレイに肝内の脈管を描出するためには、下図の様な大雑把な解剖図を理解しておく必要がある。
肝の脈管の異常像の例
①Glisson 鞘の輝度亢進 相対的
Starry skyと表現される。肝細胞の障害を反映するとされる。肝炎や、血球貪食などの高サイン状態でよくみられるが、ただのウイルス感染で出る場合もある。実際には 実質の 輝度が低下している ため、相対的に Glisson 鞘が目立って見える。
3.肝腎コントラスト
小児では腎のエコー輝度が年齢により変化するため、肝腎コントラストの評価に当たっては注意が必要である。
正常新生児:
腎皮質の輝度が非常に高く、肝は腎よりやや低めの輝度となる。
正常乳児:
乳児期~1歳代頃に腎皮質の輝度は下がってきて、肝臓と同等になる。
これ以降、成人期にかけては肝が腎よりもやや明るいのが正常な肝腎コントラストとなる。
つまり12歳では判断に迷う、ということです。
肝臓の異常を疑う場合には、脾臓と輝度を比べるなどの工夫が必要かも知れません。
4.肝のサイズ計測
左葉、右葉それぞれ、以下の様なサイズ計測の方法が一般的です。しかし肝サイズは正常値の幅が広いことや、腎臓が計測する場所に入り込んでいたりする関係上、個人的には数値を厳密に扱うことはしていません。肝腫大がある人の経過観察などで、経時的評価には有用だと思います。
左葉:
左葉計測値=L1+L2
心窩部縦走査で、大動脈が長軸にまっすぐ見えている像で計測します。
右葉:
右葉計測値=R1+R2
右肋弓下走査で、門脈水平部を画面上真横になるように出します。R1は肝表~門脈水平部の中央。R2は門脈水平部の中央~肝の最も背側。
5.肝内の限局性病変の見つけ方
肝は非常にでかいです。油断すると隅っこを見落とすので、注意が必要です。
一方で小児の肝に限局性病変ができるのは非常に稀なので、ポイントを絞って観察し、あまり時間をかけ過ぎないようにしたいものです。。。
見落としやすい場所は以下です。
肝左葉の左端:①と②で観察。上下をガスに挟まれるため見づらいですが、できるだけ左側の端っこまで、よく観察します。
右腎周囲(S6):③で観察。④からだと「見えた気」になりやすい。
横隔膜ドーム直下:成人だと深吸気してもらうのが大変ですが、乳幼児では相対的に肝の位置が低いので楽です。
肝表面:大きい肝臓を観察していると、自然と深度が深くなります。エコーという機械の特性上、画面の中央の画質が最も優れており、自然と術者の注目も画面の中央にいきやすいです。
肝表面に限局性病変があるのがお分かりだろうか、、、
以上、肝臓はサイズも大きく、働きや疾患との関連も複雑な臓器なので、見たいポイントを
意識しながら観察する方が良いです。