解説
胆道閉鎖症
病歴 | 日齢31 男児 D-Bil高値 周産期に特記すべき既往はない。仮死なく出生し、産院で黄疸に対して1日だけ光線療法を実施された。経過中の血液検査でD-bil 2前後でやや高く、経過を見られていた。改善がないため精査のため大学病院に紹介受診された。 体表奇形などなく、哺乳も良好。体重増加は20-25g/day程度。 |
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D-bilの上昇はありますが、単独で黄疸をきたすほどの数値にはなっておらず、黄疸が主訴になることは実際には少ないと思います。
典型的には一カ月健診の前後または1カ月健診時に、便色が薄いことを契機に精査に入ることが多いです。
身体所見 | 腹部はややぽってり、軟、肝臓は右季肋部下1-2cm、明らかな脾腫なし 眼球結膜黄染あるが月齢相当
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薄いといってもまったくの白色になることは珍しく、今回の写真のようにスケール4番の症例はかなり多いです。
進行例では、身体所見で肝腫大や、肝臓の硬さが出てくることがありますが、そこまで至る前に発見したい疾患です。
右季肋下横走査
最初にマニアックな点ですが、動画で出てくる正常な肝臓と比べ、肝実質パターンが粗い印象があります。
胆汁うっ滞に伴う肝障害が出現しつつある所見です。
上の動画で強調した、門脈水平部の腹側の帯状の高輝度は、Triangular Code Signとよばれ、胆道閉鎖症の最も代表的なエコー所見です。
この位置にあった肝内門脈が炎症を起こして潰れ、この様な像を呈すると思われます。
通常でもグリソン鞘は高輝度に見え、肝内胆管や肝動脈を包含するため多少の厚みがある高輝度に見えることがありますが、3mm以上は異常とされます。
病状の進行とともに明瞭かするのか、胆道閉鎖と診断された症例でも、あまり目立たない場合もありました。
↓Triangular Code Signが派手だった症例
↓Triangular Code Signが目立たなかった症例。計測しているのは痕跡的な胆のう
なお、肝内胆管は全て同じように炎症を起こしています。
門脈水平部以外の部分でも、門脈周囲にケバケバした高輝度が見えると思います。
胆のう
胆嚢は変形・萎縮。胆嚢の消失と記載されている教科書もありますが、実際には近年の高解像度のエコーでは、萎縮していびつな壁を有する痕跡的な胆嚢を描出できることが多いです。多少内腔が保たれている場合もありますが、哺乳前後で収縮しません。
肝動脈
肝内の肝動脈は通常よりも拡張して目立ちます。上の図の様に門脈臍部と隣り合った肝動脈は、ドプラが乗りやすいのでいつも観察しています。
いろんな評価手法がありますが、門脈と径の比をとって、(A/P比)0.4以上は拡大とするのが一般的な基準です。
エコー所見のまとめと結論
肝内の門脈周囲は全体にケバ立っており、特に門脈水平部の腹側は帯状の高輝度を形成しておりTriangular Code signを呈しています。
胆のうも委縮して痕跡的です。
病歴と合わせ、胆道閉鎖症をつよく疑います。
補足
胆道閉鎖症は未だはっきりとした原因は解明されておりませんが、そのまま進行すれば肝硬変に至ります。
肝門部空腸吻合術(葛西の手術)を生後2か月以内に実施することが予後改善に繋がるとされます。
つまり疑ったら即、高次医療機関で精査を開始すべきです。
上記の所見はいずれも、時間経過とともに完成してくる場合が多くあるため、単回の検査では感度は必ずしも高くないかも知れません。
この点を意識し、少しでも疑ったら必ず、次の評価へつなげる姿勢を持つことが大切です。
参考
So Mi Lee et al. Korean Journal of Radiology. 16(6)1364-1372. 2015