解説
筋性斜頸
病歴 | 周産期に特記すべき既往はない。1か月健診で、右頸部の腫瘤を相談された。 母親は、「いつからあったのか分からないけど、だんだん大きくなってきた気がする」とのこと。左を向く癖がある。 |
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頸部腫瘤は小児科の外来ではよく見かけますが、新生児期からというと、かなり稀ですね。
増大傾向もあると悪性腫瘍などが心配になり、大学病院へ紹介されてくる症例もしばしば経験します。
低月齢で増大傾向の頸部腫瘤として、良性なものでは正中頸嚢胞、リンパ管奇形などがあります。
向き癖がある点が聴取されており、この時点で筋性斜頸が鑑別の第一に挙がります。
出生時の筋損傷ですが、腫れてくるのはちょっと時間がかかるので、生後2-3週間くらいかけてハッキリしてくるのはむしろ典型例です。
しかし、どちらかというとより年長児で一般的な化膿性リンパ節炎などでも炎症や疼痛で二次的に斜頸を呈することもありますので、しっかり鑑別します。
身体所見 | 右頸部にφ1.5-2.0cm大の弾性硬の腫瘤を触れる。可動性は悪い。熱感や発赤はない。 |
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低月齢児では頸が短く、また頸部を伸展して診察に協力してくれるわけではないので、
頸部腫瘤の局在や性状を詳細に把握するのは難しい場合が多いです。
炎症っぽくない、ど真ん中ではない、、、といったあたりで、
やはり筋性斜頸を第一に疑っています。
超音波所見では、まだらな低エコー腫瘤、辺縁は平滑です。
リンパ節に典型的な像ではありません。また、矢印の部分に少し、しっぽみたいに飛び出ている部分があります。
この飛び出ているところを長軸で捉えるように当てなおすと、紡錘状の腫瘤であることがわかります。
なお腫瘤の深さは、皮内・皮下よりも深部です。周囲の軟部組織やリンパ節に炎症を疑わせる高輝度や浮腫がないこともポイントです。
炎症がない紡錘形の腫瘤な時点で、病歴と合わせてほとんど診断は確定です。
欲を言えば、両端が乳様突起・胸骨枝/鎖骨枝にあることまで同定すれば、
「この腫瘤は胸鎖乳突筋である」=新生児期に胸鎖乳突筋が腫れて斜頸になっている=筋性斜頸と確定診断します。
比較的低エコーな腫瘤で、画像設定次第ではけっこう真っ黒く見えるので、
悪性リンパ腫を心配しての紹介もよく見られますが、悪性リンパ腫では血流が多めにはいるのが典型像です。
(紡錘形にもなりません)
よくよく観察すると、内部に筋繊維を思わせるスジが見えます。
筋肉の内部は異方性といって輝度が大きく変化するアーチファクトも出やすいので、
少しプローブの角度を変えてみるなどして、よく内部が観察できる位置を探すとよいです。
反対側の胸鎖乳突筋を描出して比較するのも良いでしょう。
エコー所見のまとめと結論
腫瘤は紡錘形で、起始などから胸鎖乳突筋の腫大をみていると思われる。
病歴と合わせ、筋性斜頸と診断する。
補足
筋性斜頸はほとんど自然治癒ですが、油断せずにしっかり整形外科にコンサルトなどするか、
少なくとも「向き癖が治らなかったら必ず相談して」とお声がけするようにしています。
エコー画像の両上端をみると、皮膚とエコーの間に少し隙間が空いているのが分かるかと思います。
これは、乳児の頸部を圧迫しないよう、ゼリーをたっぷりつけて、圧しなくても良い画質を得られるように工夫がされているためです。
頸部以外でもそうですが、せっかく低侵襲なエコーで検査をしているので、児に負担をかけないよう、こころがけましょう。